北海道大学大学院医学研究院の研究チームが2025年8月4日、糖尿病治療薬DPP-4阻害薬によって生じる皮膚の指定難病「水疱性類天疱瘡」を特異的に検出する革新的な診断法を開発したと発表しました。これまで診断が困難とされてきたこの病気を早期に発見し、適切な治療につなげる画期的な技術です。
糖尿病治療薬が引き起こす皮膚の難病
DPP-4阻害薬関連水疱性類天疱瘡とは
水疱性類天疱瘡は高齢者に多い自己免疫性水疱症で、日本の指定難病の一つです。近年、2型糖尿病治療薬であるDPP-4阻害薬を服用中の方で水疱性類天疱瘡の発症頻度が高いことが報告されており、DPP-4阻害薬は日本で最も多く使用される糖尿病治療薬であることから、この副作用への対策が急務となっていました。
従来の診断の困難さ
DPP-4阻害薬関連水疱性類天疱瘡は早期に診断できれば治療への反応性が良いことが知られていますが、診断に重要な血中の自己抗体は通常の検査では検出されないことが多く、新たな検査法が望まれていました。
革新的な「ドメインスワップタンパク」技術を開発
画期的な検査法のメカニズム
北海道大学の眞井翔子客員研究員、眞井洋輔客員研究員、氏家英之教授らの研究グループは、水疱性類天疱瘡の自己抗体がターゲットとするBP180タンパクの各部位を、BP180タンパクと類似した構造を持つ13型コラーゲンの一部に挿入する「ドメインスワップタンパク」を用いた新たな自己抗体検出法を創出しました。
高精度な特異的検出を実現
この技術により、DPP-4阻害薬関連水疱性類天疱瘡の患者が有する自己抗体を特異的に検出することに成功しました。これにより以下の診断精度向上が可能になりました。
- DPP-4阻害薬関連水疱性類天疱瘡患者の早期診断
- 偶発的にDPP-4阻害薬を飲んでいた水疱性類天疱瘡患者との区別
遺伝的背景との関連性も判明
HLAとの関連を発見
さらに重要な発見として、今回発見した自己抗体の結合部位は、DPP-4阻害薬関連水疱性類天疱瘡患者が有する特定のHLAが認識する部位の予測と関連していることが示されました。
この発見により、遺伝的な素因を持つ患者の特定も可能になり、特定のHLAタイプを持つDPP-4阻害薬を内服中の糖尿病患者においては、予防的なモニタリングが可能になることが期待されます。
患者への具体的なメリット
早期診断による治療効果の向上
この新しい診断法により、これまでは診断が困難であったDPP-4阻害薬関連水疱性類天疱瘡患者を早期に識別できるようになり、より適切な治療介入や予防的モニタリングが期待されます。
治療方針の最適化
診断精度の向上により、以下のような治療方針の最適化が可能になります:
- 早期診断による軽度な治療での改善
- 重症化予防のための予防的対応
- DPP-4阻害薬の継続可否の適切な判断
国際的に高く評価された研究成果
Science Advances誌に掲載
本研究成果は、2025年8月2日にScience Advances誌に掲載され、国際的に高く評価されています。論文タイトルは「Identification of distinct epitopes in dipeptidyl peptidase-4 inhibitor-associated bullous pemphigoid(DPP-4阻害薬関連水疱性類天疱瘡におけるBP180ドメインスワップタンパクによる新規エピトープ同定)」です。
今後の展望と社会的意義
糖尿病治療の安全性向上
この診断法の実用化により、糖尿病患者がDPP-4阻害薬をより安全に使用できる環境が整備されることが期待されます。早期診断と予防的モニタリングにより、皮膚の副作用を最小限に抑えながら、効果的な糖尿病治療を継続できるようになります。
個別化医療への貢献
HLAタイプとの関連性が判明したことで、患者の遺伝的背景に基づいた個別化医療の実現にも大きく貢献することが期待されます。
この画期的な診断法により、糖尿病治療を受ける多くの患者さんが、より安心して治療を継続できる環境が整うことが大いに期待されます。
ソースURL: https://www.hokudai.ac.jp/news/2025/08/post-1993.html