福岡市東区の九州大学病院近くにある『シバタハウス』が、存続の危機に立たされています。難病を抱える子供達が入院や通院治療を受ける際、家族や付き添いの人達が'病院近くの我が家'のように暮らせる『ファミリーハウス』として、これまで数多くの利用者の精神的、経済的負担を助けてきた存在だけに、患者や病院関係者も危機感を募らせています。
1泊1000円で利用できるファミリーハウス
『シバタハウス』は2016年6月10日、アパートのオーナーが無償提供した3部屋をリフォームし、寄付やボランティアで運営されています。代表の髙原登代子さん(64)は、長男が小児がんを発症した経験から、ファミリーハウスを開設しました。
ファミリーハウスとは、重い病気と闘う子供やその家族が、病院の近くで滞在できる施設のことです。長期にわたる治療による家族の精神的、肉体的、経済的な負担を軽減することが目的で、『シバタハウス』は1泊1部屋1000円で滞在することができます。これまで9年間の利用者は延べ1万2000人近くにのぼります。
髙原さんは「大体、生活に必要なものは揃っています。キッチンがあるというのは、ホテルとはまた違いますよね。お母さんの手作りの料理を作っていただける。九州一円、沖縄・山口、時には四国や関東からもこの施設を利用する場合がある」と語っています。
利用者の切実な声
『シバタハウス』の部屋に置かれたノートには、重い病気の子供を抱えた親達の苦しい状況や切実な思いが綴られています。
「PICUへの入院が長くなり、熊本から知らない土地で家族にも会えず、子供の治療の不安もあり、涙することもあったが、ハウスの方々に助けて頂き、なんとか頑張ることができました。本当に感謝」という2023年12月の利用者の声や、「娘の手術のために利用させて頂きました。宮崎からです。心臓の大きな手術で、私の心も落ち着かず、不安な1週間でしたが、何かあってもすぐに病院に行ける距離なので、ゆっくりお風呂に入り、寝ることができ、体力温存できたので、明日から娘と一緒に退院まで頑張ります」という2020年7月の利用者の声が記されています。
道路拡張計画で存続危機
元々、古いアパートをオーナーから無償で提供を受け、部屋を改装して作られた『シバタハウス』ですが、『シバタハウス』の前の道路が道路拡張計画が進み始め、3年後を目途に『ハウス』を返すことになっているため、存続の危機に立たされています。
高原さんは、『シバタハウス』の近くで別のファミリーハウスも運営していましたが、2024年の夏、老朽化で建物の取り壊しが決まり、立ち退いています。「提供して頂いているということは、どうしてもこういうことが起こる訳であって、早く自分たちの『ファミリーハウス』をということを益々考えた」と話しています。
医療現場からの評価と支援の広がり
九州大学病院小児医療センター長の田尻達郎医師は、医療が進歩して助かる命が増える中、『ファミリーハウス』の需要は高まっていると指摘しています。「子供に最新、最善の医療を提供したい。そのためには、インフラ。ファミリーハウスもインフラ。そういう充実は、まだまだ必要だと思う。少子化だからこそ、1人1人の子供の健康、将来の生き方に関して、社会全体が支援するような仕組みになっているとよいと思う」と語っています。
2025年11月には、存続の危機にあるファミリーハウスの必要性を広く知ってもらおうと、市民参加型のシンポジウムが福岡市内で開催されました。高原さんは「高度医療病院を地元に持っている私たちが、遠くから『子供が死ぬかもしれない』という恐怖の中、やってくる人達をみんなで支えて欲しいんです」と訴えました。
髙原さん達は『シバタハウス』利用者の現状などをまとめた冊子を作り、行政や地元企業などに支援を呼びかける活動を行っており、大賀薬局の大賀崇浩社長も「何かしらやらせていただきたい」と理解を示しています。髙原さんは「このハウスがなくなることは、小児医療の致命的なことになると思うので、これをみなさんに共有してもらって、社会からウエーブを起こしたいと思います」と今後も引き続き活動を続けていく決意を新たにしています。
