従業員が難病に罹患した際、人事部門や管理職はどのように対応すべきでしょうか。難病には「治療が長期にわたる」「外見からは分かりにくい」などの特徴があり、仕事との両立支援には特有の難しさがあります。長年難病支援にかかわり、難病法への「ピア・サポート」導入にも尽力された群馬パース大学看護学部看護学科の川尻洋美講師に、両立支援のポイントについて伺いました。
難病の定義と就業の現状
難病は非常に数が多いのが特徴で、一説には4000種類以上あると言われています。そのうち、医療費助成の対象として登録される「指定難病」の疾患数は現在348疾患です。これは2015年1月に施行された「難病の患者に対する医療等に関する法律(難病法)」によって定められました。
難病と聞くと「寝たきり」や「働けない」とイメージする方も多いでしょう。しかし、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構の調査(難病患者4,523名が回答)では、回答者の70%が就業していると確認されました。行政の就労支援や、テレワークの普及により、難病を抱えていても多くの人が働けるようになりつつあるのです。
外見からの分かりにくさと体調変動の大きさ
難病特有のポイントとして重要なのは、「外見からの分かりにくさ」と「体調変動の大きさ」です。難病は心臓、腎臓、呼吸器、肝臓などの内部疾患が多いため、外見からは治療中であることが分かりづらいのです。また、「午前中は調子が良かったけれど、午後は動けなくなった」「昨日できたことが今日はできない」など、体調が大きく変動するのも特徴です。
日本で比較的患者数の多い難病として、「潰瘍性大腸炎」という消化器系疾病や、「パーキンソン病」という神経系疾病が挙げられます。同じ病名であっても個別性が高い点を理解しておく必要があります。
困りごとの理解が支援の鍵
従業員が難病に罹患した場合、難病になった従業員の話を直属の上司が聞き、産業保健スタッフ(産業医、保健師など)と連携するのがスムーズな流れです。上司が相談を受けるときは「病気の詳細」に注目するのではなく、「仕事をする上で何に困っているのか」「会社がどんな配慮をすればいいのか」をヒアリングすることが重要です。
例えば潰瘍性大腸炎であれば「トイレに立つ回数が増えるかもしれないので、トイレへアクセスしやすい席にしてほしい」といった具体的な要望を聞けるとよいでしょう。病気の特性を「困りごと」という言葉に置き換え、解決するために企業ができることを、従業員とすり合わせることが大切です。
ピア・サポートによる相互扶助の意識醸成
難病の従業員の孤立や孤独に対して、企業はどのように向き合えばよいのでしょうか。川尻さんは難病法に「ピア・サポート」という言葉を入れることに尽力しました。「ピア・サポート」とは、「ピア(仲間)」が「サポート(支え合い)」する活動のことで、同じような経験を持つ人が支え合うことを意味します。
企業内でピア・サポート的なアプローチを取り入れる場合、特定の難病に特化する必要はありません。例えば、「がん」などの病気に罹患した人の話を聞く機会を設けるなど、「職場でこんなことに困った」「この一言に救われた」といった経験を共有します。職場の相互理解が深まれば、組織文化が両立支援を内包できます。
プライバシー保護と公平性の両立
難病の従業員に対し、他の社員から不満の声が上がった時、人事部門や上司はどのように説明責任を果たせばよいのでしょうか。まず大前提として、プライバシー保護を徹底する必要があります。病気や体調の不具合は個人情報であり、本人の同意なしに開示してはいけません。
職場で説明する上で大切なのは、公平性を守りつつ、お互いにとって過ごしやすい環境を作っていくための「合理的配慮」について伝えることです。配慮が必要な従業員への支援は「特別扱い」ではありません。当事者だけでなく、他の従業員に対しても同じように公平に配慮が行き渡る仕組みがあることを伝えるべきです。
企業・人事部門に期待されること
難病治療と仕事の両立支援に関して、第一に、難病を特別な問題にしない組織文化の醸成が重要です。難病を誰にでも起こり得る「不測の事態」として捉え、従業員の誰もが休暇制度や柔軟な働き方を公平に利用できる体制を整えてほしいと考えています。
第二に、管理職の育成です。管理職向けの研修は特に効果的であり、コミュニケーションスキルを学んだり、役割を理解したりすることで対話の質が向上します。難病の治療と仕事の両立支援は、画一的な対応では不十分で、本人と企業、専門家が連携し、困りごとの解決に向けて計画を立てることが必要です。











