肥大型心筋症(HCM)は、心筋が異常に肥大し、特に閉塞性肥大型心筋症(oHCM)では左室流出路の閉塞が生じる指定難病です。国内の発症頻度は500人に1人と推定されています。しかし、実際の患者数は難病認定数よりも大幅に多いと考えられています。これまで病態そのものを標的とした治療薬は存在しませんでしたが、2025年3月に新規作用機序を持つ「マバカムテン(商品名カムザイオス)」が日本で承認されました。
マバカムテンは、心筋の収縮に関与するミオシンとアクチンのクロスブリッジ形成を選択的かつ可逆的に阻害し、心筋の過収縮とエネルギー消費(ATP消費)を抑制します。これにより、HCMの主因であるサルコメア異常に直接作用し、左室流出路閉塞や拡張障害を改善するファーストインクラスの薬剤です。2024年3月時点で米国や欧州を含む40カ国以上で承認されています。
日本人患者を対象とした第Ⅲ相HORIZON-HCM試験では、30週間の投与で運動負荷後の左室流出路最大圧較差が平均-60.7mmHg(95%CI: -71.5~-49.9)と大きく低下し、NYHA心機能分類もクラスII・IIIからクラスIへの改善例が多く認められました。副作用発現率は2.6%(1/38例、動悸のみ)で、重篤な副作用や死亡例は報告されていませんでした。
また、患者の運動耐容能や症状、QOL(生活の質)指標も有意に改善し、忍容性も高いことが確認されています。海外のEXPLORER-HCM試験でも同様の有効性・安全性が示されており、国内外で一貫した結果が得られています。
マバカムテンは、従来の対症療法では十分にコントロールできなかった症候性閉塞性肥大型心筋症患者に対し、病態生理に基づいた治療選択肢を提供する画期的な薬剤です。今後、より多くの患者の症状改善とQOL向上が期待されています。