大阪大学の研究グループが、難病ALS(筋萎縮性側索硬化症)の発症メカニズムについて画期的な発見をしました。世界で初めて、ALS患者さんの脳と脊髄を細胞ひとつひとつのレベルで同時解析することで、脊髄の運動神経が「過剰に興奮する」状態にあることを示す遺伝子発現変化を発見しています。この研究成果は2025年11月11日、英国科学誌「Brain」に掲載されました。

ALSの発症に関わる3つの重要な発見

今回の研究では「単一細胞核マルチオーム解析」という最先端の遺伝子解析技術を用いて、ALS患者さんと運動神経の病気のない方の脳・脊髄から約13万個の細胞を解析しました。その結果、3つの重要な事実が明らかになっています。

1つ目は、ALS患者さんの脊髄の運動神経で「GRM5」という遺伝子が異常に活発になっていたことです。この遺伝子は神経を興奮させる信号を強める「グルタミン酸受容体」を作る設計図であり、運動神経が過剰に興奮し続ける状態、つまり興奮毒性が起きていることが分かりました。2つ目は、神経の働きを助けるオリゴデンドロサイトという細胞の一部が減っていたことです。この細胞は神経を包む「ミエリン鞘」を作り、神経の情報伝達や栄養補給など重要な役割を担っています。3つ目は、ALSになりやすい遺伝的な変化が、脳内の免疫細胞「ミクログリア」に多く見られたことです。

細胞間ネットワークの病気であることが判明

これまでALSの発症にグルタミン酸による過剰な神経興奮や細胞間ネットワークの異常が関係することは推測されていましたが、詳しい分子メカニズムについては解明されていませんでした。今回の研究により、ALSは運動神経そのものが異常を起こすとともに、神経と周囲の細胞が互いに影響し合う「細胞間ネットワーク」の病気であることが明らかになりました。

従来の遺伝子解析では組織全体の平均的な情報しか得られず、細胞ごとの違いを正確に調べることができませんでした。研究チームは単一細胞核レベルで脳と脊髄のすべての細胞を解析し、ALSでどの細胞がどのように変化しているのかを詳しく調べることで、これらのメカニズムを解明しました。

新しい治療法開発への期待

この研究成果により、運動神経の過剰な興奮を抑える薬(GRM5を標的とした薬)や、ミクログリアの働きを整える治療法の開発が期待されます。また、病気の見方が変わり、神経だけでなく「神経を支える細胞」も治療の重要な標的になる可能性があります。

本研究で得られた解析データは世界中の研究者に公開され、ALSや関連する神経疾患の研究を大きく前進させることが期待されています。なお、本研究は日本学術振興会(JSPS)、日本医療研究開発機構(AMED)および大阪大学先導的学際研究機構(OTRI)の助成を受けて行われました。

ソースURL: https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2025/20251118_3

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