難病・拡張型心筋症に再生医療で新たな一歩

京都大学発のバイオベンチャー「iHeart Japan」は2025年7月28日、難病「拡張型心筋症」の新たな治療法として、自社開発のiPS細胞由来細胞製品を用いた臨床試験(治験)開始を正式発表しました。従来、根本的な治療手段が「心臓移植」に限られてきたこの病気に対し、再生医療が“当たり前”の治療となる未来を目指しています。

治療の特徴-iPS細胞×細胞シート技術

  • 製品の仕組み
    健康な人から作られたiPS細胞をもとに心筋細胞や血管内皮細胞を作製。それをシート状にし、ゼラチンでできたゲルを挟んで5層に重ね、直径4cm・厚さ1mmのシートに仕立てます。この多層シートを、患者の心臓表面に手術で貼り付け、移植するのが特徴です。
  • 治療のねらい
    移植した細胞が分泌する物質(分泌因子)で心臓機能回復を促進。複数枚重ねることで細胞数を増やし、長期間にわたる分泌が期待されます。ゲルは細胞の生存維持や薬理効果の長期化にも役立ちます。

臨床試験(治験)の進み方

  • 初の症例誕生
    2025年5月下旬、東京女子医科大学病院で1例目の患者への移植が完了。患者さんは無事退院し、通院で観察を継続中です。
  • 今後のスケジュール
    この治験は最大10名を対象に2027年3月までに実施予定。大阪大学医学部・東京大学医学部附属病院も協力施設となっています。順調なら2028年ごろ承認申請を目指します。
  • 安全性への配慮
    移植患者は半年間、免疫抑制剤を服用。以降は経過を見て継続の可否を判断します。

現場の声と期待

iHeart Japanの角田健治代表は「会社設立から12年、治験を始めるという一つの大きな壁を乗り越えた。参加患者さんや医療機関の先生方に心から感謝したい」と会見で語りました。患者約2万人と推定される難病・拡張型心筋症にとって、移植以外の新たな打開策として期待がかかっています。

他大学・研究グループの動向

  • 大阪大学も同様の治験を実施
    大阪大学も2024年からiPS細胞由来心筋細胞シートの「医師主導治験」を開始済み。今後は多施設共同で臨床応用の裾野が広がっていく見通しです。

まとめ

拡張型心筋症は治療選択肢が少なく、重症例では心臓移植が唯一の根治手段でした。しかし、iHeart JapanによるiPS細胞×シート技術を使った新治療法が、再生医療による画期的な新しい選択肢を提示し始めました。国内初のヒト移植症例も誕生し、最先端医療の現場がついに動き出しています。難病患者や家族、医療従事者にとって今後の進展は大きな希望と言えるでしょう。

ソースURL: https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC241CO0U5A720C2000000/

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