東京科学大学(Science Tokyo)核酸・ペプチド創薬治療研究センターの柳平貢特任助教らの研究グループが、中枢神経を標的とした高い有効性と安全性を両立できる核酸医薬「Chol-HDOPMOPMO」を開発しました。本成果は2025年12月22日付の「Nature Communications」誌に掲載されています。​

核酸医薬の現状課題

核酸医薬は、これまで治療法がなかった神経難病に対する新しい創薬技術として期待されています。特に遺伝性筋萎縮性側索硬化症(ALS)や脊髄性筋萎縮症(SMA)など、従来は治療が難しかった中枢神経の難治性疾患に対して、国内外でアンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)新薬が承認されています。​

しかし、現行のASOには、髄腔内投与時の麻痺や鎮静といった急性毒性、免疫反応の惹起、遅発性の毒性リスク、治療効果の弱さや持続性不足、腰椎穿刺で投与した薬剤が脳まで十分に到達しないなど複数の課題が指摘されていました。頻回の髄腔内投与は患者さんの大きな負担となるため、高い安全性と有効性を両立する新しい核酸医薬技術の開発が求められていました。​

Chol-HDOPMOPMOの設計と特徴

本研究では、安全性が高い人工核酸であるホスホロジアミデートモルフォリノオリゴマー(PMO)に着目しました。PMOはモルフォリン環を持ち、電荷を持たず細胞毒性が低い利点があります。これにヘテロ二本鎖核酸(HDO)構造を組み合わせ、さらに**コレステロール(Chol)**を結合させることで、Chol-HDOPMOPMOが設計・合成されました。​

研究成果

Chol-HDOPMOPMOの主な研究成果は以下の通りです。​

  • 従来の一本鎖ASOと比較して、最大で16倍という高いスキッピング効果を示した
  • 1回の投与で効果がより長く持続した
  • 脳から離れた腰髄に投与した場合でも脳で高い効果を示した
  • SOD1遺伝子の翻訳抑制においても、従来の一本鎖ASOより強い抑制効果を示した
  • 一本鎖ASOで見られた鎮静の副作用が認められなかった
  • 免疫反応の惹起や長期的な体重変化も見られず、良好な安全性プロファイルを示した

リポタンパク質との結合が鍵

研究グループは、Chol-HDOPMOPMOが髄液中のリポタンパク質と結合して効率的に中枢神経組織へデリバリーされるメカニズムを明らかにしました。一方、PMOの代わりにPS-MOEと呼ばれる別の化学構造を導入したChol-HDOMOEMOEでは、リポタンパク質との相互作用が弱く、同様の優れた効果が見られませんでした。この結果は、HDO構造に含まれる人工核酸の化学構造が中枢神経組織へのデリバリーに強く影響することを示しています。​

今後の展開と社会的インパクト

Chol-HDOPMOPMOは、塩基配列を適切に設計するだけでさまざまな遺伝子を標的化できるため、中枢神経に影響を与える遺伝子疾患に対する幅広い創薬応用が期待されます。また、化学構造のさらなる最適化により、副作用の一層の低減や効果の向上も期待されます。​

研究グループは「今後は核酸医薬を取り巻く"From bench to bedside"の壁を打ち破り、臨床応用の加速につなげていきたい」と述べており、神経難病患者への実用化に向けた取り組みが進んでいます。本研究は、AMED革新的バイオ医薬品創出基盤技術開発事業や文部科学省科学研究費助成事業、および武田薬品工業株式会社との共同研究費の支援を受けて実施されました。

ソースURL: https://www.qlifepro.com/news/20260116/chol-hdo-pmo.html

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