英国の製薬大手GSK(グラクソ・スミスクライン)が開発する新薬「リネリキシバット」について、米国食品医薬品局(FDA)が新薬承認申請(NDA)を受理したことが2025年6月12日に発表されました1。この薬剤は、希少な自己免疫性肝疾患である原発性胆汁性胆管炎(PBC)に伴う胆汁うっ滞性そう痒症(激しいかゆみ)の治療薬として期待されており、承認されれば患者さんの生活を大きく変える可能性があります。
原発性胆汁性胆管炎という病気
原発性胆汁性胆管炎(PBC)は、肝臓からの胆汁の流れが障害される胆汁うっ滞性肝疾患です1。この病気では、胆汁の流れが悪くなることで血液中に過剰な胆汁酸が蓄積し、皮膚を掻いても軽減しない体内からの激しいかゆみ(胆汁うっ滞性そう痒症)を引き起こします。
患者さんの深刻な悩み
海外の報告では、PBC患者さんの最大90%がさまざまな程度の重症度でこのかゆみを経験するとされています1。このかゆみは睡眠障害、疲労、生活の質の低下をもたらし、患者さんを衰弱させる深刻な影響を及ぼします1。現在の治療では、約70%の患者さんで病気の進行は抑制できるものの、かゆみの症状や生活への影響を軽減することはできません。
リネリキシバットの革新的な治療法
新しい作用メカニズム
リネリキシバットは、回腸胆汁酸トランスポーター(IBAT)を阻害する経口薬として開発されています。胆汁酸の再吸収を阻害することにより、血液中のさまざまなかゆみの原因物質を減少させる仕組みです。
希少疾病用医薬品指定
米国食品医薬品局と欧州医薬品庁は、リネリキシバットをPBCにおける胆汁うっ滞性そう痒症の治療を適応とした希少疾病用医薬品に指定しています。
GLISTEN試験で実証された効果
238名を対象とした国際共同試験
新薬承認申請は、第III相試験GLISTENの良好な結果に基づいています。この試験は、胆汁うっ滞性そう痒症を有する238人のPBC患者さんを対象として、実薬群とプラセボ群に均等に割り付けた国際共同臨床試験です。
主要評価項目を達成
GLISTEN試験では、胆汁うっ滞性そう痒症およびかゆみに関連した睡眠障害に対し、プラセボ群と比較して迅速かつ有意で持続的な改善を示し、主要評価項目と主な副次評価項目が達成されました。また、リネリキシバットの安全性プロファイルは、以前の試験およびIBAT阻害のメカニズムから想定されたものと一致していました。
世界19カ国での実施
本試験はPBC患者さんを対象とした国際共同臨床試験として初めて米国、欧州連合、中国および日本を含む世界19カ国において実施・完了した試験です。
専門家からのコメント
GSKの呼吸器・免疫・炎症部門のR&Dグローバルヘッドであるカイヴァン・カヴァンディ氏は、「FDAによる本申請の受理は、リネリキシバットの開発において重要な節目となります。リネリキシバットは、PBCに関連する持続的な強いかゆみや、それに起因する睡眠障害に苦しむ患者さんの生活に変化をもたらす可能性があると信じています。これらの症状は患者さんに深刻な影響を及ぼしますが、現在、治療の選択肢は非常に限られています」と述べています。
GSKの肝疾患への取り組み
GSKは肝疾患患者さんのために複数の治療法の可能性を研究しており、原発性胆汁性胆管炎(PBC)に加え、慢性B型肝炎、アルコール関連肝疾患(ALD)、代謝機能障害関連脂肪肝炎(MASH)に対する治療法の可能性を研究しています。
今後の期待
承認されれば、リネリキシバットはPBCに関連するかゆみに対する世界初の治療薬となる可能性があります5。これまで有効な治療選択肢が非常に限られていた患者さんにとって、この新薬は大きな希望となることが期待されます。
2026年3月のFDA承認審査結果が、PBC患者さんとそのご家族にとって明るいニュースとなることを願っています。