関西学院大学と医薬基盤・健康・栄養研究所などの共同研究グループが、遺伝性難病である嚢胞性線維症の治療効果を高める新しい核酸物質の開発に成功しました。この研究成果は2025年10月31日、核酸医薬・遺伝子治療分野の国際学術誌「Molecular Therapy - Nucleic Acids」に掲載されています。
嚢胞性線維症とは
嚢胞性線維症は、CFTR遺伝子の変異によって引き起こされる遺伝性疾患です。日本では出生約60万人に1人と非常に稀な病気ですが、欧米では出生約3,000人に1人が発症する頻度の高い疾患として知られています。この病気では気道や消化管で粘液の粘性が異常に高まり、慢性の呼吸器感染や膵機能不全などを引き起こします。
研究の画期的なポイント
今回開発されたアンチセンス核酸(ASO)は、RFFL(ユビキチンリガーゼ)と呼ばれる物質を標的としています。RFFLは、嚢胞性線維症の原因であるCFTRタンパク質の分解を促進し、既存の治療薬「CFTRモジュレーター」の効果を妨げる因子として知られていました。
研究チームが独自のアルゴリズムと人工核酸技術を組み合わせて開発したこのASOには、3つの重要な特徴があります。1つ目は、肝臓などへの毒性が低く、体内での安定性が高いことです。投与後最大2週間にわたってRFFL遺伝子の働きを抑える効果が持続することが確認されました。2つ目は、既存の治療薬であるCFTRモジュレーターの効果を増強できる点です。3つ目は、一般的な変異体だけでなく、複数の希少変異体にも有効性を示したことです。
患者さんへの新しい希望
患者由来の気道上皮細胞を使った実験では、このASOがCFTR変異体の細胞内での分解を抑え、細胞膜上への正常な発現を促進することが明らかになりました。既存の治療法では効果が出にくかった希少なCFTR変異を持つ細胞でも有効性が確認されています。
特に注目すべきは、一部の症例ではこのASO単独でも既存のモジュレーター治療と同等の効果を発揮した点です。これは、従来の治療が効きにくかった患者さんにとって、新たな治療の選択肢となる可能性を示しています。
今後の展望
この研究成果は、一般的なCFTR変異体(ΔF508)を持つ患者さんだけでなく、希少な変異体を持つ患者さんにも有効である可能性を示しました。今後、嚢胞性線維症の新たな核酸医薬の創出につながることが期待されます。本研究は科学研究費助成事業、日本医療研究開発機構、公益信託加藤記念難病研究助成基金などの支援を受けて実施されました。











