九州大学生体防御医学研究所の土本大介助教らの研究グループは、難治性のてんかん疾患「DEE35(発達性およびてんかん性脳症35)」の原因となる物質「イノシン三リン酸(ITP)」が体内でどのように作られるのかを世界で初めて解明しました。 この生成に欠かせない酵素「GUK1」を特定し、その働きを抑えることでマウスモデルにおいてITPの蓄積が抑制され、寿命が延長されることも確認されました。 本成果は2026年7月30日(現地時間)に米国科学アカデミー紀要(PNAS)に掲載されており、DEE35の治療法開発に向けた重要な基盤となることが期待されます。

💡 用語解説:「DEE35(発達性およびてんかん性脳症35)」とは?
生後数週間以内の乳児早期に発症する、難治性のてんかんを特徴とする疾患です。 「ITPA(イノシン三リン酸分解酵素)」をつくる遺伝子が欠損することで、本来すぐ分解されるはずの有害な物質ITPが体内に蓄積し、脳への障害が起きると考えられています。 治療が非常に難しく、発症のメカニズムの解明が世界的に求められていました。

💡 用語解説:「非正規ヌクレオチド」とは?
DNAやRNAの材料となる物質(ヌクレオチド)の中で、本来体内に存在してはいけない異常な形のものを指します。 正規のヌクレオチド(ATPやGTPなど)に構造が似ているため、細胞の中でそれらの邪魔をしてしまう可能性があります。 ITPはこの非正規ヌクレオチドの一種で、通常はほぼ存在しませんが、分解酵素ITPAが欠損すると蓄積して病気を引き起こします。

研究の背景——「なぜITPが体内にたまるのか」は謎だった

ITPAという酵素が欠損するとITPが蓄積してDEE35を引き起こすことはわかっていましたが、そもそも体内でITPがどうやって作られるのかは長年不明でした。 土本助教らのグループは「通常は正規ヌクレオチドであるIMP(イノシン一リン酸)が、細胞内の酵素によって段階的にリン酸化されてITPになる」という仮説を立て、検証しました。

2つの主な発見

  • ① ITP生成に欠かせない酵素「GUK1」を特定
    ITPA遺伝子が欠損した培養細胞を用いた解析により、ITPの生成に必須の遺伝子として「GUK1(グアニル酸キナーゼ1)」を同定しました。 GUK1は本来グアノシン一リン酸(GMP)をリン酸化する酵素ですが、それと構造が似たIMPも間違ってリン酸化してしまうことが確認されました。 こうしてできたイノシン二リン酸(IDP)がさらにリン酸化されてITPが生成されると考えられます。
  • ② GUK1を抑制するとITP蓄積が減り、マウスの寿命が延長
    ITPA欠損細胞およびDEE35モデルマウスでGUK1の働きを抑制すると、ITPの蓄積が抑制されました。 さらに、通常短命となるITPA欠損マウスにおいて、GUK1抑制によって寿命が延長されることも確認されました。 これはITPの生成経路の制御が、DEE35の治療につながる可能性を示しています。

今後の展望と研究者のコメント

土本助教は「GUK1は強く抑制すると別の疾患の原因となってしまうためすぐに治療に結びつけるのは難しい」としつつも、今後も難治疾患のメカニズムの解明を続け、治療に結び付けたいと述べています。 今回解明されたITPの生成経路は、DEE35の根本的な治療法開発に向けた新たな切り口として、国内外の研究者からも注目が集まることが予想されます。

※ 本研究は基礎研究段階のものです。現時点で患者さんが直接利用できる新しい治療法ではありませんが、将来の治療法開発に向けた重要な基礎となる成果です。

🔗 元記事・論文はこちら

※ 詳細なプレスリリース(PDF)は九州大学公式サイトからダウンロードできます。

引用・参照元

※ 当記事は上記を参照し、難病ネットワークインフォメーション編集部が要約・解説したものです。

※ 最終確認:2026年7月

おすすめの記事