順天堂大学大学院医学研究科の田村直人主任教授と筑波大学の川﨑綾助教らの研究グループは、指定難病「好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA)」について、日本人患者の遺伝的背景を初めて詳細に解析しました。 その結果、アレルギーや炎症に関わる「TSLP」遺伝子のバリアントが日本人・ヨーロッパ系の両集団に共通する発症関連遺伝子である可能性が示され、一方で日本人にのみ見られる遺伝的な特徴も明らかになりました。 本研究成果は2026年7月10日に国際医学雑誌「RMD Open」に掲載されています。
💡 用語解説:「好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA)」とは?
白血球の一種である「好酸球」が異常に増加し、全身の小さな血管に炎症が起きる指定難病です。 喘息(ぜんそく)や副鼻腔炎が先行して現れることが多く、その後、心臓・腎臓・末梢神経・皮膚などに障害が生じることがあります。 血液検査で「ANCA(抗好中球細胞質抗体)」という抗体が検出される場合(ANCA陽性)と検出されない場合(ANCA陰性)があり、それぞれ遺伝的背景が異なることが近年明らかになっています。
💡 用語解説:「ゲノムワイド関連研究(GWAS)」とは?
ヒトのゲノム(遺伝情報)全域にわたる遺伝子の個人差(バリアント)と、特定の病気との関連を統計的に網羅的に調べる研究手法です。 「どの遺伝子の違いがこの病気になりやすさに関係しているか」を探ることができ、新たな治療ターゲットやバイオマーカーの発見につながります。 これまでEGPAのGWASはヨーロッパ系集団を対象としたものに限られており、日本人(東アジア系)での研究は行われていませんでした。
研究の背景と目的
EGPAはヨーロッパ系集団を対象とした遺伝研究では、複数の発症関連遺伝子バリアントが報告されていましたが、日本人を含む東アジア系集団での遺伝的背景はほとんど明らかになっていませんでした。 人種・民族によって遺伝的な背景が異なることは珍しくなく、ヨーロッパ系の知見をそのまま日本人に当てはめられないケースもあります。 本研究は日本人EGPA患者103人を対象に、ヨーロッパ系集団で報告された遺伝子バリアントとの関連を調べ、共通点と相違点を明らかにすることを目的としました。
3つの主な発見
- ① TSLP遺伝子——日欧共通の発症関連遺伝子の可能性
アレルギーや好酸球の活性化に深く関わる「TSLP」遺伝子のバリアントが、ANCA陽性・陰性にかかわらずEGPA全体で関連傾向を示しました。 この結果はヨーロッパ系集団での報告と一致しており、TSLP遺伝子が人種を超えてEGPAの発症と関わる共通遺伝子である可能性が示されました。 TSLPを標的とした治療薬(すでに喘息等で臨床応用されているものもある)のEGPAへの応用が今後期待されます。 - ② HLA-DRB1*07:01——日欧共通の関連アリル
免疫応答の個人差に大きく関わる「HLA-DRB1」遺伝子のアリル(タイプ)のひとつ「*07:01」が、ANCA陽性EGPAにおいて日本人・ヨーロッパ系の両集団で関連が認められました。 - ③ HLA-DRB1*09:01——日本人集団に特異的な関連
「*09:01」アリルとEGPAとの関連は、日本人集団でのみ認められ、ヨーロッパ系集団では確認されませんでした。 このアリルはMPO-ANCA陽性の血管炎全般に共通する疾患感受性との関連が示唆されており、EGPA特有というよりもMPO-ANCA陽性血管炎に広くかかわる可能性があります。
今後の治療・診断への展望
今回の研究から、EGPAの発症に関わる遺伝的要因には「日欧共通のもの」と「集団特異的なもの」の両方があることが確認されました。 TSLP分子を標的とした治療薬の臨床応用が期待されるとともに、将来の分子標的薬やバイオマーカー開発においては、日本人の遺伝的背景を考慮した研究の重要性が改めて示されました。 今後、日本人EGPAを対象としたさらなるGWASが進むことで、より詳細な遺伝的要因の解明が期待されます。
※ 本研究は基礎・遺伝疫学研究の段階です。直ちに新しい治療法・診断法が提供されるものではありませんが、将来の研究開発に向けた重要な基盤となる成果です。
🔗 元記事・論文はこちら
- 順天堂大学「国の指定難病『好酸球性多発血管炎性肉芽腫症』の日本人集団における遺伝的背景を解明」(2026年7月10日)
- 原著論文「Genetic associations of eosinophilic granulomatosis with polyangiitis in the Japanese population」– RMD Open(英語・DOI: 10.1136/rmdopen-2025-006644)
引用・参照元
※ 当記事は上記を参照し、難病ネットワークインフォメーション編集部が要約・解説したものです。
※ 最終確認:2026年9月






