東京大学医科学研究所の渡部沙織特任助教・武藤香織教授らの研究グループは、難病・希少疾患の患者と家族212名を対象に、医学研究への「患者・市民参画(PPI)」に関するオンライン調査を実施しました。 その結果、ほぼすべての回答者がPPIに価値を認めていた一方、PPIという言葉を事前に知っていたのは29.7%にとどまり、患者会に参加していても66.9%は知らなかったことが明らかになりました。 本研究成果は2026年8月13日付で国際学術誌「Research Involvement and Engagement」に掲載されており、難病領域でのPPI推進に向けた政策的な課題を提示しています。
💡 用語解説:「患者・市民参画(PPI)」とは?
患者や市民が、研究の「対象」としてではなく、研究の計画・実施・成果の発信に関わる担い手として参加することを指します。 たとえば、研究の問いの立て方・調査項目の決め方・研究成果の伝え方に患者の経験や視点を反映させることで、研究の妥当性や社会的な意義を高めることが期待されます。 英語では「Patient and Public Involvement」の頭文字をとってPPIと呼ばれます。 日本では2019年にAMED(日本医療研究開発機構)が「PPIガイドブック」を公表していますが、法律上の規定はまだありません。
💡 用語解説:「患者会(患者アドボカシー団体)」の役割とは?
同じ病気や障害を持つ患者・家族が集まり、情報交換・相互支援・社会への働きかけを行う団体です。 今回の調査では、PPIの認知と統計的に関連していたのは「患者会への参加」のみでした。 これは患者会が研究者と患者・家族をつなぐ重要な橋渡し役であることを示しています。 一方で、希少疾患では参画できる人の数が限られるため、一部の患者・家族や患者会の担当者に負担が集中しやすいという課題も浮かび上がっています。
調査の主な結果——「知らないだけ」で価値は認めている
調査は2021年12月〜2022年4月にかけて実施され、患者本人101名・家族111名の計212名が回答しました。 主な結果は以下のとおりです。
- PPIの認知は29.7%、関わった経験は20.8%
回答者の約8割は患者会に参加していた集団でしたが、それでもPPIを知っていたのは3割にとどまりました。 - ほぼ全員(99.1%)がPPIに何らかのメリットを見いだした
最も多かったのは「疾患の研究が進展するかもしれないから」(84.9%)で、「医学や研究に関する知識を得られるから」(66.0%)、「他の患者の役に立つかもしれないから」(62.3%)が続きました。 - 必要な支援として「情報提供」「学びの機会」が約7割
「社会一般への周知」「患者・家族への教育の機会」「医療機関などでの情報掲示」がいずれも約69%で挙げられました。 - 患者本人と家族で認識に違いあり
家族は「研究への期待」が高い一方、「知識が足りない」と感じる割合も高く、患者本人と家族それぞれに合った情報提供や参画機会が必要であることが示されました。
難病領域でのPPIが遅れている背景と課題
がんの領域では2023年閣議決定の「第4期がん対策推進基本計画」がPPIを独立した項目として初めて明記しています。 一方、難病の患者に対する医療等に関する法律(難病法)にもとづく基本方針は、患者データの収集・成果の情報提供については定めていますが、研究過程へのPPIについては定めていません。 研究グループは、この「空白」が現在も残っており、難病領域においてPPIを政策上どう位置づけるかが今後の重要な課題だと指摘しています。
特に難病・希少疾患は、診断や治療の改善が研究の進み方に大きく左右される分野であり、国際共同研究ではPPIが前提とされつつあります。 国内でPPIの基盤が十分でないと、日本の患者・家族の経験や意見が国際的な研究に反映されなくなる懸念もあります。
研究グループが提言する4つのポイント
- PPIを制度上「推進する」と定めるだけでなく、情報提供・学びの機会・患者会への支援を参画の前提条件として位置づけること
- 患者会が担ってきた研究と患者コミュニティの橋渡し役割を評価し、財政的・制度的に支えること
- 患者本人と家族を一括りにせず、それぞれの立場に応じた参画機会と支援を用意すること
- 難病領域の政策文書においても、研究におけるPPIを検討の対象とすること
🔗 元記事・論文はこちら
- 東京大学医科学研究所「難病・希少疾患研究に、患者と家族はどう参画できるのか」(2026年8月13日)
- 原著論文「Awareness and perceptions of patient and public involvement in rare disease research in Japan」– Research Involvement and Engagement(英語・DOI: 10.1186/s40900-026-00955-9)
※ 調査は2021〜2022年に実施されたものです。回答者は患者・家族団体のネットワークを通じて募られており、日本の難病・希少疾患患者・家族全体を代表するものではありません。
引用・参照元
※ 当記事は上記を参照し、難病ネットワークインフォメーション編集部が要約・解説したものです。
※ 最終確認:2026年9月






