国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構(QST)と千葉大学大学院の研究グループは、指定難病「進行性核上性麻痺(PSP)」の患者さんを対象に、脳内のタウタンパク質の蓄積が時間とともにどのように広がり、症状の進行とどう関連しているかを、同一患者の追跡によって世界で初めて実証しました。 脳深部の「淡蒼球」という部位でタウ蓄積が速く増える患者さんほど、症状の進行も速いことが明らかになり、タウ蓄積を抑える治療が症状進行の抑制につながる可能性を初めて科学的に裏付けました。 本成果は2026年9月5日に神経学分野の国際学術誌「Movement Disorders」に掲載されました。
💡 用語解説:「進行性核上性麻痺(PSP)」とは?
中高年で発症し、歩行障害・転倒しやすさ・眼球が動かしにくい・体が固くなるといった運動症状に加え、認知機能の低下も起きる指定難病です。 脳内に異常なタウタンパク質が蓄積することで神経細胞が障害される「タウオパチー」の代表的な疾患のひとつで、人口10万人あたり10〜20人程度の希少疾患です。 現時点では病気の進行を止める根本的な治療法は確立されておらず、症状を和らげる治療が中心となっています。
💡 用語解説:「タウPET」とは?
脳内のタウタンパク質に結合する特殊な薬剤を投与し、PET(陽電子断層撮影)装置でタウの蓄積場所と量を画像として映し出す検査・研究手法です。 これまでタウの蓄積は亡くなった後の脳の検査でしかわかりませんでしたが、タウPETによって生きている患者さんの脳内でタウの広がりをリアルタイムに観察できるようになりました。 今回の研究ではQSTが独自に開発した高感度タウPET薬剤「florzolotau(18F)」が使用されています。
研究の背景——「タウが増えると症状が悪化する」という仮説を証明できなかった理由
PSPの脳内にタウが蓄積することは以前から知られていましたが、これまでの研究のほとんどは一時点での観察にとどまっていました。 亡くなった後の脳では同じ患者さんを時間をかけて追跡できず、生体でのタウPET研究においても「タウが増える」ことは示せても、それが「症状の悪化と連動している」かどうかは不明のままでした。 この「タウ蓄積の変化」と「症状の進行」を同一患者で同時に追跡した研究が存在しなかったため、タウを治療標的とすることの妥当性を科学的に示す根拠が不足していました。
2つの主な発見
- ① タウ蓄積は淡蒼球から大脳皮質・小脳へと広がっていく
PSP患者26名を対象に初回と約1年後の2回PET検査を行った結果、タウ蓄積は脳深部の「淡蒼球」を中心に持続的に増加し、時間とともに前頭頭頂葉や小脳白質へと広がっていくことが生体脳で初めて可視化されました。 - ② 淡蒼球のタウ増加速度が症状進行の速さと強く相関
PSPの最も多い病型「リチャードソン症候群」(18名)を対象に解析したところ、淡蒼球でのタウ蓄積増加量が大きい患者さんほど、PSPの重症度スコア(PSP Rating Scale)の悪化も大きいことが明らかになりました。 つまり、タウが速く増える人ほど症状も速く進む——この関係が初めて生きている患者さんの追跡データで証明されました。
今後の治療・臨床試験への応用
今回の結果は、タウ蓄積を抑える治療薬が開発されれば症状の進行を抑えられる可能性を科学的に支持するものです。 また、タウPETによる経時的評価は、治療薬の効果を客観的に測る「画像バイオマーカー」として臨床試験に活用できる可能性も示されました。 研究グループは今後、さらに多くの患者さんを長期追跡し、タウ蓄積の変化が症状全体や治療への反応をどの程度反映するかを検証するとしています。 また今回確立した手法は、PSPにとどまらずアルツハイマー病など他のタウ関連疾患にも応用できる可能性があります。
※ 本研究は基礎・臨床研究段階のものです。現時点でタウを標的とした治療薬は承認されておらず、今回の成果が直ちに新しい治療法として利用できるものではありません。
🔗 元記事・論文はこちら
- QST「難病『進行性核上性麻痺』で脳内タウ蓄積が速く進む人ほど症状も速く進行することを実証」(2026年9月5日)
- 原著論文「Spatiotemporal Tau Accumulation and Its Clinical Impact on Progressive Supranuclear Palsy」– Movement Disorders(英語・DOI: 10.1002/mds.70468)
引用・参照元
- 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構(QST)プレスリリース – qst.go.jp (2026年9月5日)
※ 当記事は上記を参照し、難病ネットワークインフォメーション編集部が要約・解説したものです。
※ 最終確認:2026年9月






