住友ファーマ株式会社は2025年8月5日、進行期パーキンソン病患者を対象とした世界初のiPS細胞由来治療薬「ラグネプロセル」の製造販売承認申請を厚生労働省に行ったと発表しました。この申請は、山中伸弥教授のiPS細胞発見から約20年を経て、ついに再生医療が「夢」から「現実の治療」へと大きく歩みを進める歴史的瞬間となります。
画期的な新薬「ラグネプロセル」とは
非自己iPS細胞由来ドパミン神経前駆細胞
今回申請された「ラグネプロセル(raguneprocel)」は、非自己iPS細胞から分化誘導させて製造されたドパミン神経前駆細胞です。パーキンソン病で失われたドパミン神経細胞を補充するという、疾患の根本メカニズムに直接介入する革命的な治療法です。
効能・効果と対象患者
- 効能・効果: 進行期パーキンソン病患者のオフ時の運動症状の改善
- 投与方法: 患者の脳内への移植
- 対象: 既存治療では十分な効果が得られない進行期パーキンソン病患者
世界トップレベルの臨床データが後押し
Nature誌掲載の治験成果
この承認申請は、京都大学医学部附属病院が実施し、2025年4月にNature誌に掲載された医師主導治験のデータに基づいています。世界最高峰の科学誌に掲載されたこの治験結果は、国際的にも高く評価された確かな科学的根拠を提供しています。
先駆け審査制度指定で迅速審査へ
本製品は厚生労働省より先駆け審査制度の指定を受けており、優先審査の対象品目となっています。これにより、通常より短期間での承認審査が期待され、パーキンソン病患者により早く新たな治療選択肢を届けることが可能になります。
産学官連携による最先端技術の集約
京都大学の技術基盤を活用
製造には以下の最先端技術が結集されています:
- iPS細胞ストック: 公益財団法人京都大学iPS細胞研究財団が提供するiPS細胞ストックを原材料として使用
- 分化誘導技術: 国立大学法人京都大学等が保有するiPS細胞からの分化誘導及び製造技術
- 細胞純化技術: エーザイ株式会社が保有する細胞純化技術を製造工程の一部で活用
新たな事業体制での実用化
- 製造: S-RACMO株式会社(住友化学と住友ファーマの合弁会社)
- 販売: 住友ファーマ
- 知的財産管理: RACTHERA(住友化学と住友ファーマの合弁会社、2025年2月設立)
パーキンソン病治療における革命的意義
根本治療への新たな道筋
パーキンソン病は、脳内でドパミンを産生する神経細胞が減少することで、体のこわばりや手足の震えが起こる国の指定難病です。現在のところ根本的な治療法は存在せず、症状の進行を遅らせる対症療法が中心となっています。
ラグネプロセルは、失われたドパミン神経細胞そのものを補充するため、これまでにない根本的治療アプローチを提供する可能性があります。
「Off-the-shelf」戦略の優位性
本製品は患者自身の細胞ではなく、他家(第三者由来)のiPS細胞を使用する「Off-the-shelf」戦略を採用しています。これにより
- 迅速な治療開始: 患者ごとに細胞を作製する必要がない
- 品質の均一性: あらかじめ品質管理された細胞を使用
- 医療アクセスの向上: より多くの患者に治療機会を提供
再生医療実用化への大きな一歩
この承認申請は、山中教授のiPS細胞発見以来、日本が世界をリードしてきた再生医療技術が、ついに実用的な医薬品として結実することを示す歴史的瞬間です。
今後の課題と展望
承認までの道のりでは、以下の点が重要な評価ポイントとなります
- 長期安全性の確認: 移植された細胞の長期的な安全性
- 免疫反応の管理: 他家移植に伴う免疫拒絶反応の制御
- 品質管理体制: 生きた細胞という特殊な製品の品質恒常性
患者への希望と社会的インパクト
住友ファーマとRACTHERAは「既存治療には期待できない医療上の新たな価値を提供し、パーキンソン病治療に一層貢献できることを目指してまいります」とコメントしており、この革新的治療法が多くのパーキンソン病患者とその家族に新たな希望をもたらすことが期待されています。
この歴史的な承認申請は、日本の再生医療技術が世界の患者を救う実用的な治療法として花開く、記念すべき第一歩となることでしょう。承認審査の動向と、実際の医療現場への導入が大いに注目されます。
ソースURL: https://www.sumitomo-pharma.co.jp/news/20250805-2.html