エーザイ株式会社とバイオジェンは2025年7月31日、アルツハイマー病協会国際会議(AAIC)2025において、抗アミロイドβ抗体薬「レケンビ®(レカネマブ)」の4年間継続治療による画期的な臨床効果を発表しました。この最新データは、早期アルツハイマー病患者において従来の自然経過と比較して大幅な改善を示し、アルツハイマー病治療に新たな希望をもたらしています。
4年間継続治療で劇的な効果拡大
自然経過を大幅に上回る改善効果
最新のCLARITY AD試験長期継続投与試験(OLE)では、レケンビの4年間継続治療により、アルツハイマー病の自然経過に対して顕著な改善効果が確認されました。
ADNIデータとの比較(CDR-SBスコア):
- 3年間投与時点: -1.01の改善
- 4年間投与時点: -1.75まで拡大
BioFINDERデータとの比較:
- 3年間投与時点: -1.40の改善
- 4年間投与時点: -2.17まで拡大
これは、治療期間が長くなるほど効果がより顕著に現れることを意味し、継続治療の重要性を強く示唆しています。
より早期の治療開始で50%以上が改善を維持
Low tau患者での驚異的な効果
脳内のタウ蓄積が少ない「Low tau」患者(アルツハイマー病のより初期段階)において、4年間のレケンビ治療後に以下の成果が確認されました
CDR-SBスコア(全般的な臨床症状):
- 69%で悪化なし
- 56%で改善を達成
ADAS-Cog14(記憶評価):
- 51%で悪化なし
- 51%で改善を達成
ADCS MCI-ADL(日常生活動作):
- 64%で悪化なし
- 58%で改善を達成
レケンビの革新的な治療メカニズム
世界初のプロトフィブリル標的治療
レケンビは、プロトフィブリルとアミロイドプラークの双方をターゲットとする世界唯一のアルツハイマー病治療剤です。
プロトフィブリルの重要性:
- アルツハイマー病による脳損傷に最も寄与する毒性の高いアミロイドβ種
- 神経細胞の損傷を直接引き起こし、認知機能に悪影響
- 不溶性アミロイドプラーク発生の増加要因
- 神経細胞間のシグナル伝達に直接的損傷を与える
プロトフィブリルを減らすことで、神経細胞への損傷や認知機能障害を軽減し、アルツハイマー病の進行を防ぐ可能性があると考えられています。
4年間にわたる一貫した安全性
4年間の継続治療において、新たな安全性の兆候は観察されませんでした。主要な副作用であるアミロイド関連画像異常(ARIA)の発現率は、最初の12か月以降に低下し、4年間にわたって一貫して安定していました。
グローバル展開の加速
46の国・地域で承認済み
レケンビは現在、日本、米国、中国、欧州(EU)、韓国、台湾、サウジアラビア等、46の国と地域で承認を取得し、10か国で申請中です。
投与方法の選択肢拡大
2025年1月には米国で維持投与に関する生物製剤一部変更申請が承認され、18か月間の隔週投与による初期治療後、4週に1回の維持投与レジメンへの移行も可能となりました。
さらなる臨床試験の展開
AHEAD 3-45試験では、臨床症状は正常だが脳内アミロイドβ蓄積が境界域・陽性レベルのプレクリニカルアルツハイマー病を対象とした第III相試験が進行中です。
優性遺伝アルツハイマー病への応用
Tau NexGen試験では、優性遺伝アルツハイマー病(DIAD)に対する臨床試験が進行しており、レカネマブが抗アミロイドβ療法による基礎療法として選定されています。
アルツハイマー病治療の新時代
従来の症状管理中心の治療から、病気の進行を根本的に抑制し、患者さんが自立した生活をより長期間維持できる治療への転換が現実のものとなりつつあります。
特に「アルツハイマー病のより早期段階にレカネマブによる治療を開始し、継続することにより、臨床症状の低下を遅らせ、長期にわたって持続的なベネフィットを提供する可能性」が示されたことは、患者さんとそのご家族にとって計り知れない希望となるでしょう。