全身の筋肉が徐々に萎縮する難病「筋ジストロフィー」を患う元小学校教師の内田一也さん(69)が、唯一わずかに動かせる指先だけで紙粘土作品を作り続けています。「諦めなければ不可能はない」——かつて教え子たちに伝えた言葉を自ら体現し、都内での展示会では50点を超える作品を披露しました。
筋ジストロフィーとはどのような難病か
筋ジストロフィーは、全身の筋肉が徐々に萎縮・変性していく進行性の遺伝性神経筋疾患です。歩行困難から始まり、やがて呼吸障害へと進行するため、多くの患者さんが人工呼吸器を必要とします。
内田さんは40代で発症し、現在は気管切開をして人工呼吸器を使いながら生活しています。両耳が聞こえず、声を発することも体を自由に動かすこともできません。国内には専門医が少なく、いまだ根本的な治療薬がないなど多くの課題が残る難病です。
教え子との「約束」が生きる力に
内田さんが作品作りを続ける原動力は、小学校教師として働いていた約10年前、卒業する6年生たちへ贈った言葉にあります。卒業アルバムには「苦難にめげず、一歩一歩しっかりとした足取りで未来へ前進していってください。先生もみんなに負けないよう、しっかりと歩んでいこうと思います」とつづられていました。
病が進行し「正常なのは目だけ、絶望しかなかった」という状況の中で、その約束が内田さんを奮い立たせました。「伝えたいことは、あきらめなければ不可能はない。可能性は無限だということ」——残された指先の力を振り絞り、作品作りへの挑戦を始めたのです。
毎日4時間、指先だけで生み出すミニチュアの世界
内田さんが制作するのは、小人たちが買い物をしたりブランコに乗ったりする愛らしいミニチュアの世界です。わずかに動かせる指先だけで毎日4時間近く作業を続け、1体1体の表情など細部にまでこだわった「小人シリーズ」は多くの来場者を驚かせます。
妻の裕子さんは「作品を見ていただくことが生きる糧になっている。生きる力をもらうってこういうことなんだなと思いました」と語ります。今回の展示会は1年ぶりの外出となった内田さんにとって、1年間の集大成の場でもありました。
難病患者が社会とつながる場としての「表現活動」
内田さんの活動は、難病患者さんのQOL(生活の質)向上という観点からも重要な意味を持ちます。身体機能が制限される中でも、表現活動を通じて社会とつながり、自己肯定感を保ち、他者に「生きる力」を届けることができるという実例を示しています。
展示会には30年ぶりに再会した教員時代の同僚も訪れ、「これだけ新しい物を生み出そうとする力がすごい。昔の子どもたちにも見せたい」と語りました。難病患者の可能性と尊厳を社会に発信し続ける内田さんの姿は、「あきらめないで!」という力強いメッセージを多くの人々に届けています。






