慶應義塾大学理工学部電気情報工学科の小川恵美悠准教授の研究室が、光技術を応用した治療・診断システムの開発を通じて、これまで治療困難とされてきた難病への新たなアプローチを追求しています。医療機関との以工連携研究を推進し、がんやパーキンソン病といった難病の治療に光技術を活かすデバイス開発を進めています。

パーキンソン病への「光渦」を使った新たな原因療法

パーキンソン病は現状では根本的な原因療法が存在せず、症状を緩和する対症療法が中心です。小川研究室では、「光渦」と呼ばれる特殊な光を使ったパーキンソン病の新しい治療法を研究しています。

パーキンソン病の原因となる「レビー小体」は、タンパク質が凝集してできた構造をしています。光渦には物体を回転させる力を加える特殊な性質があるため、この回転する力によってタンパク質の凝集体をほぐし、パーキンソン病の原因物質を取り除くことができるのではないかという仮説のもと、現在基礎的な研究が進められています。

脳・脊椎のがんへの光線力学療法デバイス開発

光線力学療法(PDT)は、薬剤と光を組み合わせた治療法で、がん細胞を選択的に破壊する方法として注目されています。小川研究室では、この光線力学療法における新しい光照射デバイスの開発を行っており、特に治療が困難な脳や脊椎にできたがんへの応用を目指しています。

生体組織の中で光がどのように伝播するかのシミュレーションと実際のモデルでの実験を組み合わせることで、安全で有効な治療を確立しようという試みが進んでいます。

光を使ったワクチンの免疫活性や止血モニタリングへの応用

研究室ではさらに幅広い医療応用にも取り組んでいます。ワクチンの免疫反応を促進するためにアジュバントと呼ばれる追加物質が必要ですが、副作用の問題があるため、レーザーを使った新しい免疫活性化の方法を提案しています。

また、救急医療で使われる止血バルーン内に光ファイバーを組み込み、体内の血流状態をリアルタイムで計測できる光モニタリングシステムの開発も行っており、バルーン使用時の血管損傷や末梢壊死といった副作用の防止を目指しています。

「光の処方箋」が届く社会の実現へ

小川准教授は研究の将来ビジョンとして「現在治療法がない患者さんに新たな治療法を届けることで希望になりたい」と語っています。将来的には、「光の処方箋」として病院での光照射だけでなく、家庭での日常的な光ケアによって健康を推進していくような社会の実現を目指しています。

光と生体組織の相互作用にはまだ解明されていないメカニズムが多くあり、これを活用することで新しい治療や診断への応用がさらに広がっていくと期待されています。医療現場の医師との共同研究を通じて、現場の課題を直接聞きながら研究をデザインするスタイルが、難病医療の最前線と研究室をつなぐ重要な架け橋となっています。

ソースURL: https://www.keio.ac.jp/ja/st/about/rikou-tv/prospective-students/page-12/

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