「娘を救う薬を開発したい」——神奈川県茅ヶ崎市の篠原さんは2年前、小学校職員の仕事を辞め、長女の七海さん(6)の治療薬の開発を目指す活動に乗り出しました。これは希少難病の世界では珍しくない「患者・家族が動く」創薬活動の一つであり、希少難病医療が直面する課題を象徴する事例です。
希少難病の患者・家族が自ら動かざるを得ない理由
希少難病は患者数が極めて少ないため、製薬企業が自発的に治療薬の開発に着手することが難しい現実があります。開発コストの回収が見込めないため、市場原理だけでは治療薬が生まれにくい構造的な問題が存在します。
その結果、患者さんやご家族が自ら資金を集め、研究者と連携し、時には海外の研究者や機関とも協力しながら「自分たちの病気の薬」を開発しようとする動きが、国内外で広がっています。篠原さんのように本業を辞めてまで活動に専念するケースは、희少難病を抱える家族の切迫した状況を物語っています。
患者・家族主導の治療薬開発(Patient Advocacy)の広がり
欧米では「Patient Advocacy(患者擁護活動)」として、患者団体が製薬企業・研究機関・行政と連携し、自ら資金を調達して研究開発を推進する事例が多数あります。代表的な例として、脊髄性筋萎縮症(SMA)の治療薬「ゾルゲンスマ」の開発にも患者家族の運動が大きく貢献しました。
日本でも、患者団体が臨床研究を後押ししたり、自然史研究(患者レジストリ)を構築して治験の基盤を整えたりする活動が広がりつつあります。未診断疾患イニシアチブ(IRUD)や日本希少疾患コンソーシアム(RDCJ)など、産官学民が連携する枠組みも整備されてきました。
「診断ラグ」と「治療薬がない」という二重苦
希少難病の患者さんが直面する課題は大きく2つです。1つ目は「診断ラグ」——正しい診断が下りるまでに数年から10年以上かかるケースも珍しくありません。専門医が少なく、病気自体の認知度が低いために、たらい回しになってしまう患者さんも多くいます。
2つ目は「治療薬がない・届かない」という問題です。仮に海外で治療薬が承認されていても、日本で承認されるまでに数年以上かかる「ドラッグ・ラグ」、あるいは市場規模が小さいとして日本には治療薬が入ってこない「ドラッグ・ロス」の問題があります。
社会全体で希少難病を支える仕組みへ
篠原さんのような患者家族が「仕事を辞めてまで」活動しなければならない現状は、希少難病に対する社会の支援体制がまだ十分でないことを示しています。2026年2月に公表されたIRUD・RDCJ・製薬協による提言でも、製薬企業の情報提供強化・新生児マススクリーニングの拡充・研究開発の加速が重点課題として掲げられており、社会全体で希少難病患者とその家族を支える仕組みづくりが急がれています。「患者家族が生きやすい社会は、すべての人が生きやすい社会」という視点で、希少難病への社会的理解と支援体制のさらなる充実が求められています。
ソースURL: https://www.yomiuri.co.jp/yomidr/article/20190124-OYTET50005/






