はじめに

これまで有効な治療法がなく、「最も残酷な難病」とも言われてきたハンチントン病。この病気に対し、イギリスの研究チームが世界で初めて治療に成功したと発表し、世界中に大きな希望を与えています。この記事では、今回の画期的な成果の内容と、それが患者さんや家族にとってどのような意味を持つのかを、分かりやすく解説します。

ハンチントン病とは?―脳がむしばまれる遺伝性の病

ハンチントン病は、遺伝子の変異によって脳の神経細胞が徐々に死滅していく病気です。主な症状は30代から40代で現れ始め、まるで認知症やパーキンソン病を併せ持ったかのように、体の動き、思考、感情のコントロールが困難になります。そして発症から約20年で死に至るとされる、進行性の難病です。親から子へ50%の確率で遺伝するため、多くの家族が世代を超えて苦しんできました。

驚異的な成果―病気の進行を75%遅らせることに成功

今回、英ユニバーシティ・コレッジ・ロンドンなどの研究チームは、AMT-130という一回投与型の遺伝子治療薬を用いた臨床試験で、驚くべき結果を得ました。

  • 病気の進行を平均75%抑制: 治療を受けた患者29人の3年後の経過を追ったところ、運動機能や認知機能の低下を組み合わせた指標で、病気の進行が平均で75%も遅くなったことが確認されました。
  • 脳細胞の保護効果: 脳細胞の死滅を示す指標となる物質(ニューロフィラメント)が、治療によって減少していることも確認され、治療が脳を直接保護していることが科学的に示されました。

この結果について、研究を主導したエド・ワイルド教授は「夢にも思わなかった劇的な結果だ」と感極まって語り、通常1年で進む病状が4年に延びる計算になると説明しています。

どのような治療法なのか?

この治療は、最先端の遺伝子治療技術を用いたもので、12〜18時間にも及ぶ精密な脳外科手術によって行われます。

  1. 原因物質を標的に: ハンチントン病の原因となる有害な「変異型ハンチンチンたんぱく質」に着目します。
  2. 治療用の遺伝子を脳へ: 安全なウイルスを運び役(ベクター)として使い、この有害なたんぱく質の生成を抑える設計図(DNA配列)を脳の深部に直接届けます。
  3. 脳細胞が自らを守る: 届けられた設計図をもとに、脳細胞自身が治療物質(マイクロRNA)を作り出すようになり、有害なたんぱく質の生成を永久的に抑え込みます。

一度の手術で効果が一生続くと期待されており、まさに病気の根本にアプローチする治療法です。

未来への希望と課題

この治療は、ハンチントン病と共に生きてきた多くの人々に、これまで想像もできなかった未来への希望をもたらしました。遺伝子変異を持ちながらもまだ発症していないジャックさんは、「未来が少し明るく見えるようになった」と語ります。仕事を辞めていた患者が復職したり、車椅子が必要と言われた人が今も歩き続けているという報告もあります。

一方で、課題もあります。治療には非常に複雑な脳外科手術が必要なこと、そして治療費が数億円にものぼる可能性があることです。

開発企業であるユニキュア社は、2026年中のアメリカでの発売を目指しており、その後、欧州やイギリスでの承認協議も開始する予定です。今後は、より多くの人がこの治療を受けられるように、費用の問題や、発症前の予防的な治療への応用などが検討されていくことになります。

今回の成功は、ハンチントン病治療における歴史的な一歩であり、他の多くの遺伝性疾患に苦しむ人々にとっても大きな希望の光となるでしょう。

ソースURL: https://www.bbc.com/japanese/articles/c4g54dgljyyo

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